弱毒性の新型インフル 政府計画の想定外◇専門家「柔軟対応を」
メキシコに端を発した新型インフルエンザ(豚インフルエンザ)のウイルスが、弱毒性との見解が示された。しかし、感染は依然拡大している。世界保健機関(WHO)が大流行に移行する可能性を重視して警戒レベルを「フェーズ4」に引き上げたことを受け、日本政府も行動計画を始動させた。だが計画は強毒性の鳥インフルエンザが新型に変異して人から人への感染にいたる事態を想定したものだ。対策の見直しは必要なのだろうか。
国の「新型インフルエンザ対策行動計画」(09年2月決定)は、発生段階を5段階に分け、国や都道府県の対策を定めている。しかしこれは「強毒性」の鳥インフルエンザを想定したものだ。現在は「第1段階」(海外発生期)だが、日本で感染者が発生すれば「第2段階」(国内発生早期)へ移行する。患者の強制入院や、発生地域での住民の移動制限、学校の休校などの対策が取られる。
東北大の賀来満夫教授(感染制御学)は「強毒性のウイルスを想定した対応だと、毒性が弱かった場合、社会不安をあおりかねない。最悪の事態に備えるのは間違いではないが、現実に即した柔軟な対応も必要だ」と話す。
WHOは今月改定したインフルエンザ対策のガイドラインで、感染の広がり具合に加え、死亡率や経済的な影響など複数の要因を考慮しながら対策を取る考え方を導入した。米国では07年、流行の深刻さを感染率や死者数、致死率によって5分類する指標を策定。それによって自治体や政府が対応を変える方針を採用している。
押谷仁・東北大教授(ウイルス学)は「日本での発生は時間の問題だろう。その時に備えて、政府の行動計画がそのまま適用できる部分とそうでない部分を整理し、不都合なところは整備する必要がある」と指摘する。
一方で押谷教授は「致死率が一つの目安になるだろうが、現段階でははっきりせず、もし0・2%だとしても1000万人規模の流行になれば2万人が亡くなる。決して少ない数字ではない」と楽観を戒める。
厚生労働省新型インフルエンザ対策推進室は「ウイルスの毒性などに関する一定の評価が出た段階で、専門家の意見を参考に考えたい」としている。
◇今後の予測困難…どうするワクチン製造
国の行動計画の第1段階には「ワクチンの開発・製造開始」が盛り込まれている。「通常のインフルエンザワクチンの生産時期に当たる場合には、製造ラインを直ちに中断して新型インフルエンザワクチンの製造に切り替える」とも規定。政府は今回、季節性インフルエンザのワクチンと並行して新型ワクチンを作ることを明らかにしている。
ワクチンは、発生国からウイルスの現物を入手し、鶏の有精卵に接種して培養する。その原液を濃縮・精製し、不活化した後、安全性を確かめて製品化する。国内の製造能力は年間約2500万~2800万人分だ。
当初、舛添要一厚生労働相は「季節性インフルエンザワクチンの製造を一時停止してでも早急に作る態勢を組みたい」と述べた。だが季節性インフルエンザでも国内で毎年1万人前後の関連死亡例があるため、厚労省の担当者は「季節性のワクチンも作る」との説明に追われた。
大槻公一・京都産業大教授(獣医微生物学)は「もしウイルスの毒性が弱いというのが正しければ、基本的には季節性のワクチンを製造した方がいい。その上で、今後の安心材料のため、例えば200万~300万人分の(新型インフルエンザの)ワクチンを製造し、備蓄しておくのがいいのではないか」と話す。
押谷教授は「ワクチンを作っても、感染が2~3カ月で終息してしまう可能性もあるし、広がり続けるかもしれない。現段階では製造の是非について何とも言えない」と言う。
インフルエンザウイルスは変異しやすいことが知られており、突然変異によって性質が変わる可能性もある。山内一也・東京大名誉教授(ウイルス学)は「本来、豚にだけ感染する能力を持っていたウイルスが、鳥や人のウイルスと交雑して豚の体内で変異した結果、人への感染力を持った。今後、弱毒性のまま人から人に感染していく確証はない」と話している。
http://mainichi.jp/select/jiken/news/20090430ddm003040053000c.html