新型インフル、国内感染なら学校休校、外出も自粛新型インフルエンザ(豚インフルエンザ)の感染者や疑い例の報告が、お隣の韓国などまで広がり、日本国内での感染発生も現実味を帯びてきた。
国内感染が判明すると、政府は学校の休校や企業活動の自粛など、人の移動を制限してでも、感染拡大を抑え込む方針だ。しかし、このウイルスが強い毒性ではない可能性もあるだけに、臨機応変な対応を求める声が上がっている。(科学部 本間雅江、高田真之、木村達矢)
◆社会的隔離◆
「子供たちを危険にさらすわけにはいかないので、一斉休校はやむを得ない。だが、休校期間が数週間以上の長期に及ぶと、休校中の授業をどう取り戻せばよいのか分からない」。東京・足立区の舎人第一小(児童数391人)の森島良洋校長は、正直な胸の内をこう語った。
最初の国内感染症例が発見されると、政府はあらかじめ策定している「新型インフルエンザ対策行動計画」に従って、警戒レベルを現在の「海外発生期」から「国内発生早期」に引き上げる。対策の柱にしているのは、抗インフルエンザ薬の投与やワクチン開発などに加えて、全学校を休校させ、さまざまな集会の自粛も要請する対策法。企業にも事業規模を縮小させ、出勤社員を減らして感染の広がりを食い止める方針だ。
文部科学省の指針によると、国内で1例でも発生した場合、症例が発生した都道府県内の学校はすべて休校になる。学校を再開する時期は政府と相談して決めると書かれている。抵抗力の弱い児童・生徒が密集する学校はウイルスを各家庭に広げ、親から職場、地域社会に広げる温床になるからだ。
人が集まる場所を閉鎖する感染対策は、世界で4000万人の犠牲者を出した「スペインかぜ」が発生した1918~19年、米国の複数の市で実施され、流行抑制に効果を上げた。「ソーシャル・ディスタンシング(社会的隔離)」と呼ばれる手法だ。
行動計画、最悪の事態想定
◆弱毒?強毒?◆
2005年に策定し、今年改定した日本の行動計画も、この手法を採用した。しかし、その対象としたのは当時、新型に変化する脅威が増した高病原性鳥インフルエンザ(H5N1型)だった。
参考にしたのが強毒性のスペインかぜ。その死亡率(2%)を基に想定犠牲者を最悪64万人にして対策を立てたが、今回の新型インフルエンザ対策に、その行動計画をそのまま当てはめてしまった。
実際、今回の新型インフルエンザによって、発生国のメキシコで150人以上が死亡したほか、米国でも29日になって初の死者が出た。しかし、米国では患者の多くが快方に向かっており、欧州など他地域では重症例はまったく報告されていない。
そもそも、このウイルスは毎年流行する季節性インフルエンザのAソ連型に近いタイプだ。今回のタイプの基になった豚インフルエンザウイルスは、米国で1976年に人に感染したことがあるが、弱毒で危険性は高くなかった。
日本国内で流行しても、毎年の季節性インフルエンザと同じ感染力と毒性にとどまる可能性がある。鈴木宏・新潟大教授(国際感染医学)は「現時点では、このウイルスが強毒性なのか、弱毒性なのか判断材料が少ない。さらに、感染者の重症度を評価するには、現地の医療水準や栄養状態も加味しないと、全体像は分からない」と話す。
◆規制と影響◆
「休校や業務自粛を要請する」とある日突然、政府から言い渡される学校や企業はどう判断し、行動すれば良いのか。多くの企業は政府からは特段の説明も支援もなく、準備もほとんどできていない。
「強毒性か弱毒性かまだ判定できない以上、行動計画に沿って対応するしかない」と、厚生労働省幹部は漏らす。どういった判断を下すのかは難しい作業となるが、無用な混乱と規制によって生じる経済損失は避けなければならない。
「今回は対策が十分に練られる前に、新型インフルエンザが発生してしまった。行動計画に書かれている対策をいま実施すると、混乱が起きる可能性が高い」。企業に危機管理の手法を提供しているNPO法人「事業継続推進機構」(東京都)の丸谷浩明理事長(元京大教授)は、こんな警鐘を鳴らしている。
http://www.yomiuri.co.jp/iryou/news/iryou_news/20090430-OYT8T00272.htm
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